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現在非居住者の中国人が、日本において居住者であったころに購入した不動産を売却する場合について

会社設立登記において、印鑑証明書の氏名が英字(ピンイン)表記になっている場合)←前

平成30年夏頃、現在は在留資格を失い中国に帰国しているが、かつて日本で中長期以上の在留資格を持ち(=日本で住民登録がなされていた)、大阪市内の不動産を購入されていた方が、その不動産を売却したいとするご依頼を頂きました。

今回は、この件について、振り返りたいと思います。
(自身の復習の意味も兼ねております。)

この件で重要だと思う論点は、4点ありました。
①非居住者又は外国法人の不動産の売却代金に対する買主の源泉徴収義務について
②かつて日本で住民登録がなされていたが、現在はなくなった場合の住所変更登記について
③売主が海外在住の外国人であるが権利証を提供できない場合について
④中国の公証処発行の公証書の日本語訳(特に住所)について

 

 

①非居住者又は外国法人の不動産の売却代金に対する買主の源泉徴収義務について
そもそも、所得税法・復興特別所得税法上、日本の不動産取引の売主が非居住者(=中長期以上の在留資格なし)である場合、原則として、買主には、買主が支払う売買代金の10.21%について源泉徴収義務があります。
具体的には、支払った月の翌月の10日までの所轄税務署に納める必要があります。なお、支払が手付と残代金のように2度に分かれてなされる場合は、それぞれ支払った月の翌月の10日までに納めねばなりません。
なお、買主には源泉徴収義務がありますから、仮に売買代金の全額を売主に支払ってしまった場合でも、売買代金の10.21%を税務署から納めることを求められます。
そして、非居住者又は外国法人である売主は後に確定申告をし、譲渡所得がない場合や売買代金の10.21%よりも少ない場合には、その額を還付してもらえます。
また、確定申告の結果、日本に所得税をいくらか納めたこととなった場合には、外国税控除として、本国で使うことができるようです。

まさに、今回は、非居住者である方について、日本の不動産を売却するという話ですから、この買主に対する売買代金10.21%の源泉徴収義務があるのか否か検討しなければなりません。
もし、源泉徴収義務が買主にあるならば、そのことを売主・買主双方(及び仲介業者)に説明し理解を得なければなりません。
また、売買契約の所有権移転時期特約についても要検討になると思います。

 

実は、この買主の源泉徴収義務は、非居住者が日本の不動産を売却する場合ならば、常にあるのではなく、例外があります。

例外①買主も非居住者 かつ 海外で取引(海外払い)をした場合

例外②買主が居住者ならば、売買代金が1億円以下 かつ 買主または親族の居住用

のいずれかの要件を満たす場合がそれです。
(なお、売買代金が1億円以下というのは、固都税の精算金も含めた額です。法的性質は、売買代金の一部のため)

 

そして、今回の取引の買主は、居住者で、売買代金も1億円以下であり、買主及び家族の居住目的で購入するものでした。
よって、買主には源泉徴収義務がないことになります。
(但し、売主には、申告義務があります。)

 

※税務についての話は、書籍の情報に加え、顧問の税理士の先生に事前に相談し調べて頂いております。
※司法書士は税務について、本来門外漢ですし、どこまで関与すべきか悩ましいところですが、制度の説明程度はできた方が良いかと考えています。司法書士なら誰でもできる誰でもやることをしていては、若手が成りあがることはできないと考えます。その意味でも、ブルーオーシャンかつ成長が見込まれるこの分野での専門性をつけ、差別化を図ることは大変意義のあることと思います。
あと、そもそも、所得があれば、日本に納税してもらうのは当たり前ですし。

 

②かつて日本で住民登録がなされていたが、現在はなくなった場合の住所変更登記について
この件の売主は、かつて日本で住民登録がなされており、その時期に大阪市内の不動産を購入されているため、登記上の住所は日本の住所です。しかし、現在は、在留資格が切れており(=日本の住所は現在なし)、中国に帰国しています。
すると、当然、売買による所有権移転登記の前提として、住所変更登記をせねばなりませんが、住所の沿革を各種証明書で完全につけることはできず、上申書で対応することになるはずです。
具体的には、住民票除票により、日本での最後の住所=登記申請前の登記上の住所は、証明できました。
また、現在の住所も公証書(宣誓供述書)で証明できます。
しかし、当然、日本の住民票除票には、「年月日中華人民共和国(〇〇省)〇〇市・・・に住所移転」などとは記載されていませんから、その部分の繋がりを証明できないのです。
ですから、上申書で対応するわけです。

さらに、住所移転の原因日付をいつにするのかも少し悩みました。個人的には、在留期間満了日の翌日かなと考えていましたが、法務局によれば、実際に帰国した日付とのことでした。
理由は、在留期間が経過しても日本にいる場合があるためとのことです。
そして、その日付は上申書の中に記載し、明らかにすればよいとのことでした。

 

③売主が海外在住の外国人であるが権利証を提供できない場合について
売主(及び包括代理人)に事前に必要書類を案内した段階では、登記識別情報通知はあるとの話でしたが、実際に包括代理人にお会いして、確認してみると、登記識別情報通知はなく(謄本を持参)、公証書も3か月以内発行のものではありませんでした。
(※売主本人の本人確認はテレビ電話にて行いました。)
(※公証書は、署名証明ではなく、印鑑・印影についてのものでした。ですから、3か月以内のものが必要です。)
直ぐに、公証書は再作成してもらうことになりましたが、紛失(失念)した権利証について、どうしようかと迷いました。

仮に、本人確認情報を作成するとなれば、必ず売主本人と面談しなければなりません。
そして、売主本人は事情により来日することが出来ないとのことでした。
(※その事情はやむを得ないものでした。)
また、売主包括代理人が飛行機やホテルの手配も売主負担でできるとのことでしたので、少し考えた私は腹をくくり、上海に乗り込んでやろうと決めました。
(※売主の住所は、上海ではありません。単に落ち合う場所です。)

早速、大阪のパスポートセンターに、パスポート発行に掛かる時間や必要書類等について、問い合わせ、そのつもりで準備を進めていました。

ところがです。
冷静によく考えてみると、現在中長期以上の在留資格のないこの売主には、不動産登記規則72条2項のいう1号書類も2号書類もありません。
旅券はあるにはありますが(売主本人確認時、居民身分証と共に提示、データも頂いた)、当然、日本国政府発行のものではありません。
念のため、法務局にも確認しましたが、やはり、1号書類には当たらないとの回答でした。
ですから、私が中国に行っても全く意味がなく、結局、事前通知制度を活用する他ないという結論に至りました。
(※中国の公証処の公証員に本人確認・認証してもらった書類を添付することも一瞬考えましたが、まず日本の不動産登記制度を理解してもらうことすら困難と思い諦めました。)

かくして、海外への事前通知制度を活用するという初めて経験をすることになりました。
ここで、海外への事前通知について、日本国内での事前通知の場合と異なること等を確認します。
・まず、通知発送の日から2週間以内ではなく、4週間以内であること
・国内で売主が個人であれば、本人限定受取郵便で発送されますが、海外ですから書留で発送されること
・さらに、海外の外国人に発送する場合でも、訳文などはつかないということ
が挙げられます。

ですから、今回は、売主本人に、
①公証書記載の住所(住所変更後の登記上の住所)に日本の大阪法務局から、事前通知という書類が送付される
②受け取ったら、書類の下部に署名及び公証書の印鑑(公証処で捺印したもの)を押す
③日本の大阪法務局に返送する(ここは、司法書士あてに郵送してもらってもいいとは思いますが。)
をしっかり理解してもらう必要がありました。

 

余談ですが・・・
今回の件で、私は法務局と何度か事前の相談をしていましたが、その際、法務局の方が、売主の権利証がないなどの事実から、日本人でない方は少しルーズ或いは文化が違うというようなニュアンスの発言がありました。
確かに、権利証の紛失ばかりでなく、外国人または外国人が代表取締役の日本法人所有の不動産の取引において、固都税等の滞納が原因で差押が何本も入った不動産の登記申請はたまりあります。
しかし、それらについて司法書士等にも責任の一端はあるのではないかと思います。
例えば、不動産の購入時、買主の日本語能力によっては、発行された権利証や権利証の注意書きについて、せめて英訳(買主の母国語がベストかもしれませんが)ぐらいは付けて返すことや非居住者が買主ならば納税管理人について説明する等するならば、少し変わるのではないかと思いました。

 

④中国の公証処発行の公証書の日本語訳(特に住所)について
本件では、添付書面として、印鑑・印影についての公証書を添付しました。
これは、1件目の所有権登記名義人住所変更登記の登記原因証明情報であり、かつ上申書に押印した印鑑についての印鑑証明書に相当します。また、2件目の所有権移転登記の委任状に押印した売主意思確認としての印鑑証明情報でもありました。
そして、当然、中国の公証処で発行されたものですから中国語で作成されていますが、日本語の翻訳文もつけてくれます。

問題は、この訳文です。

そもそも、中国(及び台湾)の住所氏名の漢字は、法務局の取り扱い上、原則そのまま登記する。しかし、その漢字が日本の漢字でなければ、その簡体字を日本の漢字に置き換えるというものです。

ここで大事なのは、日本の漢字にない場合だけ、置き換えるということです。

ということは、例えば、当事者の住所が公証書の原本(中国語)では、「・・・〇〇道○○里3号楼2単元202号」となっていて、公証処作成の日本語訳では、「・・・〇〇道○○里3号棟2門202号」となっているとき、盲目的にこの日本語訳の記載を申請書等に記載することはできないことになります。
なぜなら、あくまで、「楼」も「単元」も日本の漢字として使えるからです。
もちろん、意味を考えれば、中国語の「3号楼」は日本語の「3号棟」の意味であり、「2単元」は「2門」の意味なのだと思います。

これに気づかないと、補正がとても面倒です。

 

ちなみに余談ですが、日本の公証役場で、原始定款に記載する発起人住所について、公証書の訳文通り作成しても、全く問題になりません。
が、設立登記申請の際には、上記の通り指摘される事があります。
ですから定款作成時から、公証役場に法務局の取り扱いを説明し、登記申請と一致する形で定款を作成する必要があります。

※法務局や公証役場によって、取り扱いが異なることがあります。

 

何はともあれ、無事、登記識別情報通知がレターパックにて、法務局より送付されてきました。

色々、勉強になった案件でした。

 

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